令和6年度の院生融合プロジェクトに採用されたお二人に、このプロジェクトについて様々なことをお聞きしました。是非ご覧ください!
【共同研究者】澤村淳さん(薬学府 創薬科学専攻)
Tan Bryan Cassidyさん(医学系学府 医学専攻)
【共同研究タイトル】Development and in vivo characterization of a novel blood-brain barrier (BBB) penetrating lysophosphatidylcholine (LPC)-conjugated serotonin compound


【研究概要】
血液脳関門は、血液中から脳組織への化学物質の取り込みを厳密に制御しており、中枢神経系を標的とした創薬研究において大きな障壁となっています。この血液脳関門を超えた薬物送達を実現するために、現在でも様々なアプローチが試みられています。今回我々は脂質トランスポーターのMFSD2Aに注目しました。
MFSD2Aは血液脳関門に局在しているトランスポーターであり、リゾホスファチジルコリン(LPC)というリン脂質を輸送することで、脳組織に必要な脂質を供給する役割を果たしています。そこで通常では血液脳関門を透過できない薬物分子をLPCに結合させることで、血液脳関門を超えた薬物送達が可能になるのではないかと考え、本研究に着手しました。

設問1. 共同研究を始めるきっかけは?
Slack でTan さんからDrug-LPC コンジュゲートの研究を提案していただいたのがきっかけです。最初は抗がん剤シスプラチンをペイロード(小分子医薬)に考えていましたが、合成する化合物があまりに特殊すぎるので、今回の研究では神経伝達物質セロトニンをペイロード分子とすることにしました。
設問2.院生融合プロジェクトに採択された感想は?
(澤村) プロジェクトとして採択されたからには責任をもって取り組もうと思いました。
(Tan) 非常に光栄に感じ、この共同プロジェクトを成功させるために最善を尽くそうと決意しました。
設問3.現在の共同研究の進捗状況は?
当初の目的の化合物の合成が完了しました。また生体内での代謝を考慮して少し構造を変えた化合物も追加で合成しました。現在は化合物の輸送活性を評価するための細胞実験を予定しています。
設問4.共同研究実施中に得た新たな「気づき」は?
(澤村) 創薬研究では化合物の合成が律速になることが多いと言われていますが、今回の研究でそれを実感できました。
(Tan) 適切な「リンカー」を持つ薬物結合体を選択し設計することは、薬剤が血液脳関門(BBB)を通過した後に切断されることを確実にするために重要です。この点について、澤村さんと化合物合成について議論し、計画する中で実際に経験しました。
設問5.計画(申請)時点では思い至らなかった、共同研究の難しさや厳しさは?
(澤村) 新規化合物の合成では「できるかどうかはやってみないと分からない」要素もありますが、あまり確実性を優先しすぎると何もできなくなってしまいます。そのため、自分で出来ることの範囲を設定するのが難しいと思いました。
(Tan) 目指す化学構造を実際に合成できるかどうか予測するのは難しかったです。また、合成効率や最終化合物の純度と量を見積もるのも困難でした。
設問6.指導教員の先生方、研究室の周りのメンバーの反応は?
(澤村) 研究室内での進捗報告などで本テーマのことを報告していますが、その際に化合物のデザインや生体内での挙動についてスタッフの先生方から意見をいただくこともあります。
(Tan) このテーマについては研究室の指導教員と詳しく話し合いました。将来的には抗がん剤を結合させることで、血液脳関門を超えた抗がん剤の送達が期待できる新手法として、本テーマに興味を持っていただきました。
設問7.実際の共同研究の進め方は?
澤村さんは大嶋教授の研究室で合成実験を行い、細胞ベースの実験はTan さんが中村教授の研究室と大嶋教授の研究室で行う予定です。合成の進捗状況や必要な情報の交換はSlackで行っています。
設問8.研究費予算50万円の使い道は?あと50万円あったら何ができた/したい?
現在は合成に必要な試薬や溶媒の購入に充てています。もう50 万円あったら、さらに詳しい構造活性相関や薬物動態試験を検討したいです。
設問9. この共同研究で学会発表や論文の執筆の可能性は?何パーセント?
化合物の活性評価の結果次第ですが、80%くらいなのかなと思います。
設問10.この共同研究の今後の展望・抱負は?
現在においても血液脳関門を超えた薬物送達は創薬研究における大きな課題となっています。今回の研究が中枢神経系への薬物送達の新たなアプローチとして将来何かの役に立つことを願っています。また、将来的にはシスプラチンなどの他のペイロード分子にも応用ができるといいと思います。
設問11.お二人それぞれの将来の夢、目指す人物像は?
(澤村) 私は研究に使用する試薬の研究開発を行うメーカーに就職するのですが、そこで人の役に立てる試薬の開発に貢献できる合成化学者を目指しています。
(Tan) 卒業後はポスドクとして学術研究室で働き、最終的には生物医学研究分野で教授になることを目指しています。
設問12.プログラム生の後輩へ、院生融合プロジェクトや共同研究にチャレンジする事へのメッセージをどうぞ。
(澤村) 今まで触れることのない研究分野に触れるいい機会となるので、自身の博士論文の研究との折り合いをつけながら挑戦してみるのもいいかと思います。
(Tan) 他の研究分野で経験を積むことは、研究者としての知識やスキルを向上させる良い機会だと思います。これにより、従来の枠にとらわれず問題を解決する方法を考え、新たな発見につながるでしょう。
【2025年2月10日追記】
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