2025年度の院生融合プロジェクトに採用されたお二人に、このプロジェクトについて様々なことをお聞きしました。
是非ご覧ください!
【共同研究者名】
菖蒲迫 健介さん(理学府 地球惑星科学専攻)
藤岡 秀二郎さん(工学府 土木工学専攻)
【共同研究タイトル】
メッシュフリー法が拓く地球物理学・防災工学のボーダーフリー次世代地震・津波シミュレータ
【共同研究概要】
日本における地震・津波の予測は喫緊の社会課題である。しかし、従来の地震予測は、過去の観測データに依拠した地震サイクルに基づくため、前例のない巨大地震・津波の予測には限界がある。津波を伴う地震は海洋プレートの沈み込みに起因するが、これをマントル対流の一環として取り扱う計算手法は未確立である。本研究では、メッシュフリー法(粒子法)により海洋プレートの沈み込み現象を再現し、地震・津波予測に資する先駆的計算手法の構築を目指す。

設問1. 共同研究を始めるきっかけは?
この共同研究が生まれるきっかけは、私たちが異分野に身を置きながら、「粒子法(SPH法)」という共通の基盤技術を共有していたことです。実は、私たち二人は偶然にも同じサークル(九州大学男声合唱団コールアカデミー)に所属しており、お互いの研究について話す機会に恵まれていました。私(菖蒲迫)は惑星科学の視点から地球マントル対流現象を、藤岡さんは防災工学の視点から自然災害現象を、それぞれSPH法を用いて研究していました。全く異なる分野に所属していますが、お互いの研究内容を知るうちに、この共通の計算手法を応用すれば一人では成し得ない、より大きな課題に挑戦できるのではないかと考えるようになりました。そこで、両者の知見を融合させる最初のテーマとして、海洋プレートの沈み込みという壮大な現象のシミュレーション研究を立ち上げるに至りました。
設問2. 院生融合プロジェクトに採択された感想は?
(菖蒲迫)自分たちの研究計画に大きな将来性を見出していただき、採択されたことを大変光栄に思います。同時に、研究費を支援いただくからには、分野融合という挑戦的なテーマに責任を持って取り組み、必ず成果を出そうと決意を新たにしました。
(藤岡)このたび本プロジェクトに採択いただけたことを大変光栄に思っております。本プロジェクトは異分野との融合から新しい価値を創り出すSPRING事業ならではの絶好の機会だと感じています。この貴重な機会を最大限に活かし、全力で研究に取り組む所存です。
設問3. 現在の共同研究の進捗状況は?
プロジェクト全体の進捗としては50%ほどです。現在は、私たちが共同開発した「最小二乗SPH法」という高精度な新手法を、津波のような自由表面を持つ複雑な現象に応用するための開発を進めています。この段階をクリアすれば、いよいよ本プロジェクトの最終目標である「海洋プレートの沈み込み計算」に着手できます。
問4. 共同研究実施中に得た新たな「気づき」は?
(菖蒲迫)SPH法はメッシュフリーな手法であるため、空間的に固定された格子を用いる一般的な手法(例えば、有限差分法や有限要素法)とは全くの別物だと考えていました。しかし、藤岡さんとの議論を通じて理論を深く掘り下げる中で、両者は数学的に非常に近い関係にあるという本質的な発見がありました。この気づきは、既存手法の知見をSPH法に応用する道を開く、大きな一歩だったと感じています。
(藤岡)私はこれまでSPH法の高精度化に焦点を当てて研究を進めてきましたが、理学府の菖蒲迫さんとの共同研究を通じて、自身が高精度SPH法の根底にある数理的な部分を十分に理解しきれていなかったことに気づかされました。また、共同研究を通じて数理的理解を深めることで、SPH法の新たな活用の可能性を見いだすことができ、大きな学びとなりました。
設問5. 計画(申請)時点では思い至らなかった、共同研究の難しさや厳しさは?
計算の精度を上げようとすると計算が不安定になり、逆に安定性を重視すると精度が犠牲になる、というトレードオフの関係に直面したことです。申請時点では、この二つを高いレベルで両立させることがこれほど困難だとは予想していませんでした。日々の試行錯誤の中で、一歩進んでは半歩下がるような研究の厳しさを実感しています。
設問6. 指導教員の先生方、研究室の周りのメンバーの反応は?
(菖蒲迫)それぞれの指導教員の先生方から強力なサポートをいただいています。私の指導教員である吉田茂生准教授からは地球物理学の視点から、藤岡さんの指導教員である浅井光輝教授からは計算工学の視点から、常に的確なアドバイスをいただいています。実は、本プロジェクトが採択される以前から浅井先生の研究室セミナーに参加させていただいており、分野の垣根を越えた議論の場がこの共同研究の土台となりました。また、両研究室の学生の皆さんとは、粒子法に関する意見交換を常日頃から行っており、非常に恵まれた環境で研究ができています。
(藤岡)菖蒲迫さんとは、本プロジェクトに採択される以前から、私の所属研究室のセミナーに参加いただき、SPH法に関する議論を重ねてきました。採択後は、地球物理学的な視点と防災工学的な視点をそれぞれ持ち寄り、分野融合を意識した議論を進めています。その際に生じる不足部分については、指導教員の先生方から適切な助言をいただき、大変心強い支えとなっています。また、研究室メンバーの中には進学を考えている人も多く、本プロジェクトの存在を知ったことで、機会があれば挑戦したいと考える人が増えており、周囲にも良い刺激となっています。

設問7. 実際の共同研究の進め方は?(オンライン、研究室に集まって、など)
研究ミーティングを週に一度行っているほか、日々の細かな連絡や計算結果の共有はSlackなどのツールを活用しています。理論的な部分は二人で、実装は各自の専門分野を活かして分担するといった形で、効率的に研究を進めています。
設問8. 研究費予算の使い道は?追加の予算があったら何ができた/したい?
いただいた研究費は、研究成果を広く世界に発信するための学術論文のオープンアクセス掲載料や、国内学会発表の旅費として、大切に活用させていただいています。もし追加の予算があれば、より大規模なシミュレーションを可能にする高性能な計算機を導入したいです。
設問9. この共同研究で学会発表や論文の執筆の可能性は?何パーセント?
学会発表と論文掲載の達成率は100%です。我々は共同研究によって、任意の精度を達成可能なSPH法の一般化モデル「最小二乗SPH法」を開発し、既に学術誌 Results in Applied Mathematics に論文が掲載されています。また、計算工学講演会にて本成果を発表しました。
論文情報:Kensuke Shobuzako, Shigeo Yoshida, Yoshifumi Kawada, Ryosuke Nakashima, Shujiro Fujioka, & Mitsuteru Asai (2025) A generalized smoothed particle hydrodynamics method based on the moving least squares method and its discretization error estimation, Results in Applied Mathematics, Volume 26, 100594.
https://doi.org/10.1016/j.rinam.2025.100594
設問10. この共同研究の今後の展望・抱負は?
本プロジェクトで取り組んでいる海洋プレートの沈み込みは、巨大地震を引き起こすメカニズムそのものです。このシミュレーションを成功させることが、私たちの最終目標である「SPH法による巨大地震・津波シミュレータの完成」に向けた重要なマイルストーンとなります。この融合プロジェクトは壮大な目標への第一歩であり、今後も二人の共同研究をさらに深化させていきたいです。
設問11. お二人それぞれの将来の夢、目指す人物像は?
(菖蒲迫)一つの専門分野に留まらず、物理学や数学といった普遍的な言葉で多様な自然現象を理解し、それを語れる研究者になることが目標です。SPH法という強力な流体計算ツールを手に、地球内部のダイナミクスから身近な流体現象まで、分野の垣根を越えてその謎に挑み続けたいです。そして、いつかはその成果を社会の課題解決に繋げたいと考えています。
(藤岡)私は、被災者を限りなくゼロに近づけることを目標に、防災・減災に資する成果を挙げ、それを社会へ還元できる研究者を目指しています。これまでSPH法に関する研究を中心に取り組んできましたが、共同研究を通じて、数理的な部分には他の手法の知見を活用できる可能性があることに気づかされました。今後は、目的を達成するために複数のアプローチを自在に扱える、多面的な力を備えた研究者になりたいと考えています。
設問12. プログラム生の後輩へ、院生融合プロジェクトや共同研究にチャレンジする事へのメッセージをどうぞ。
(菖蒲迫)自分の専門分野だけで研究に行き詰まりを感じた時、異分野の視点が思わぬ突破口を開いてくれることがあります。私自身、この共同研究を通じてそれを何度も経験しました。少しでも面白そうだと感じるテーマや人がいれば、まずは気軽に話すことから始めてみてください。そこから、きっと新しい研究の扉が開くはずです。ぜひこの貴重な機会に挑戦してほしいと思います。
(藤岡)共同研究では、自分一人では気づけなかった視点やアプローチに出会うことができます。私自身、数理的な考え方を異分野から学ぶことで、SPH法の新しい可能性を見いだすことができました。最初は不安に思うかもしれませんが、異なる専門を持つ方と議論することで、必ず新しい発見や学びが得られます。創発科目を通じて、気軽にメッセージを送ることができると思うので、ぜひ挑戦してみてください。